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崩れ/幸田 文

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 「新潟県は崩れの多いところだときく。」とある章の書き出しだが、この文章がさっぱりと無着色で素晴らしいと思った。

 この本は、作家の幸田文が、とあるきっかけで目にした静岡県と山梨県境にある「大谷崩れ」をみて衝撃を受け、全国の名だたる崩れを見て歩くという異色の取材記録。こんな題材でこんな本が出ているのか…というのも面白いが、その文体がまたさっぱりと透明で、今の私達が良く目にするような、無用なアオリや誇大表現がないのが美しい。
 また、そのさっぱりとした書き方が故に、崩れという自然がもたらした「異質」な空間がより不気味に感じられる。この手のルポに良くあるような、取材地の地図や写真が一切記載されていないというのが、逆に想像力をかき立てられるのかもしれない…。
 とはいいつつ、本書で紹介されている崩れは、1〜2カ所を除いて、私も全て見に行ったことがある場所ばかりなので、こういう言い方はちょっとズルいかもしれない。

 青く美しい山道をゆくと、とたんにその傷口というか、内蔵をさらけ出すように出現する崩れ、確かにその異質な風景は、文学の対象となっても良かったものだと思うが、私が知る限りでは、崩れを、このような文体でまとめてある記録は、他にないような気がする。

崩れ(講談社文庫)/幸田 文

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