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江戸の海外情報ネットワーク/岩下哲典

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 かつての海外情報については全く無知であった…という江戸史観が、ここの所大分是正されてきているような気がする昨今。こんな本が図書館に並んでいたので借りてきて読んでみた。

 本書は、鎖国制度により海外情報から隔離されていたと思われていた、江戸時代の海外情報の入手ルート、並びにネットワークについて考察した本である。

 私も知らなかったのだが、教科書にも出ていた江戸時代の「象」の話。実は象が日本にやってきたのは、江戸時代を通じて何度かあったこと、それどころか、時代を遡った徳川家康も、海外からの献上品として象を受け取っているとのことであった。なるほどねー。

 その他、本書で語られている中で印象深かったのが「ペリーの白旗」の件。この一件については、今でも歴史学者や歴史マニア達で色々と議論されているネタで、ペリーが浦賀沖で当時の浦賀奉行である香山に、白旗を渡したか否かという点。この記録は日本側のみに記載されており、長い間アメリカ側の記録に白旗に関する記述がなかったことから、当時の日本人が驚いたあまり作った創作ではないか?などと言われていたのだが、最近になってどうやらペリーが日本人に対して白旗を渡して恫喝に使ったというのは事実であるらしい…という流れになっている。この記述が何故アメリカ側の資料にないのかというと、どうやらこの作戦は、時のフィルモア大統領に進言したらしいのだが、止められていたそうで、ペリー側も内緒で行い記録に残さなかったから…らしい。他にもペリーは、琉球を武力占領すると進言し、当然ながら大統領に止められたりと、割と過激な考え方の持ち主であった。

 いや…私が問題問題にするのは、その白旗外交が事実なのかどうかではなく、その白旗がもたらす意味についての話。どうやらペリーの白旗があったという人たちの論調によれば、その白旗に時の幕府高官はびびりまくって慌てて会見地を用意した…みたいな話になっている本を読んだことがあるのだが、そもそも戦地での「白旗」というのは、当時の国際ルールであり、本書で問題にしているのは、その意味を当時の日本人が知らなかったとは思えないという点。
 確かに戦場での白旗は、局地的には降伏に使われることもあるが、他には軍使の派遣等、つまり武装解除を示す目印であり、その国際ルールについて、乗船した香川がアメリカの高官から丁寧に説明されたというのが不愉快であった、その不愉快な思いが報告などに伝わり、より大がかりで面倒な情報として幕府に伝わってしまったというのが本書の論考。なるほど、さもありそうで面白い。
 ちなみに、本書でも紹介されているが、ペリーの白旗事件については、ズバリ「ペリーの白旗/岸俊光」というが出版されているので、こちらも興味がある方は是非。

 ま、そんな感じで、江戸時代の主に後期に発生した国際的な事象について、割とザックリ紹介されている本で、難しそうなタイトルながら、結構気楽に読める。おすすめです。

江戸の海外情報ネットワーク(歴史文化ライブラリー)/岩下哲典
ペリーの白旗―150年目の真実/岸 俊光

|江戸の海外情報ネットワーク/岩下哲典|


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