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▼2018年06月03日

戦車に注目せよ!

https://farm2.staticflickr.com/1736/42469098222_765d88d435_m.jpg この本は、無類の戦車好きである秋山優花里…もとい、ハインツ・グデーリアンが書いた文章を集めた本。700ページ以上もある分厚い本でそれなりのお値段なので図書館で借りてきて読みました。どうでもいいけど、こういう本こそ電子書籍化してほしいものです。

 グデーリアンと言えば、ドイツ装甲師団創設者の1人。
 第二次世界大戦の開戦時には、鮮やかな電撃戦でフランスをあっという間に蹂躙してダンケルクへイギリス軍を追い詰める事に成功し、ドイツ軍に完全勝利をもたらした指揮官。
 もっとも誤解している人がいるかもしれませんが、ドイツによるフランス侵攻作戦を立案したのは彼ではなく、マインシュタインです。当時のドイツとフランスの国境は、フランスによって作られたマジノ線と呼ばれる大要塞で塞がれていたのですが、マインシュタインはそのマジノ線への直接攻略を避け、要塞化はされていませんでしたが、当時大軍による侵攻が不可能とされていたアルデンヌの森を装甲師団で突破する作戦を立案します。
 他のドイツ参謀から「そんな作戦は無謀」といわれていましたが、その中でひとり「出来らぁ!」と声を上げたのが、猛将秋山!…じゃなかった、グデーリアン(当時は中将で軍団長)でした。

 その後のグデーリアンの活躍ぶりは、対フランス戦の大勝利の通り。彼の侵攻があまりにも「出来らぁ!」過ぎて、当時のヒトラーもさすがに不安になって謎の装甲師団の停止命令を出したり、グデーリアンはそれをまた無視して進軍したら参謀本部から怒られてようやく停止したとか、彼の猛将、韋駄天ぶりは、規律を重んじる当時のドイツ軍らしからぬものだったそうです。
 さらにグデーリアンは戦場においても後方に引っ込んでおとなしくしているような指揮官ではなく、セダン(だったかな?)の突破作戦時には、最前線でフランス軍の機関銃に晒されながら仮設橋を構築中の工兵部隊の所にまで出張って檄を飛ばし、現場の兵士から「いいからひっこんでろ」と後に連れてかれたりと、まさに「韋駄天ハインツ」の名の通りの活躍ぶりを見せつけました。
 もっともこの、グデーリアンの「優秀な現場監督」ぶりは、ある意味彼の評価を分けるポイントでもあります。

 本書の白眉はなんといっても、本書のタイトルにもなっている「戦車に注目せよ!」という論文かと。
 この論文では、第一次世界大戦で登場した戦車という兵器、それが戦場で如何に有効で、将来の戦争を支配する兵器になるか、そしてその運用法、装甲師団を要した軍隊の作戦についてなど、様々な提言を行っています。
 細かい記述には時折「んんっ?」となる部分もあるのですが、翻訳者のあとがきにもあるように、彼は歴史家ではなく、あくまでも優秀な軍人でしかないので、細かい部分の誤りを指摘しても仕方がないでしょう。本書巻末の解説には細かすぎるほどの間違いの指摘がありますが、個人的にはそういう兵器のスペックの思い違いよりも、彼が考える戦場におけるドイツ軍兵士とフランス・イギリス軍兵士の描写に少し違和感を覚えたかな。

 後半は、グデーリアンが第二次世界大戦後に発表した記事や論文で、正直この辺りの認識はかなりガッカリな印象。彼が認識していた戦後の世界観を簡単に説明すると、「世界は共産主義者に支配されつつあり、その魔の手から世界を救うため、西側の軍隊はもっと軍事力を増強すべき。偉大な我がドイツの東端は本来タンネンベルグよりも東であり、西側諸国の軍隊は偉大なドイツ復活のためにもっと真剣になってほしい、ただしフランス人は信用できん」といった趣で、今となっては(当時でもか)割と残念な考え方。
 また、グデーリアンの戦後の文章を読んでいて感じるのは、彼にとっての世界とは、ドイツとその周辺だけで、それ以外には全く興味がなかったのかなと。特に第二次世界大戦で一緒に闘った我々日本のことなんて、そもそも認識すらしていなかったのでは?戦後の海軍力についてもチラッと触れていますが、太平洋地域の情勢には全く触れず、彼にとっての海軍理論はドイツ沿岸のことにしか興味がなかったのでしょう。

 わかりやすく言うと、グデーリアンは優秀な軍人、それも「デキる現場監督」ではありましたが、それ以外では決して博識で教養溢れているといった人間でもなかったようです。戦後の論文を読んでも冴えない理論ばかり展開していますし、その背景にはやや排他的とも思える愛国者ぶりが伺えます。今風に言えば「ネトウヨ」みたいな性格かも。

 とまぁ…世界の軍事研究者と日本のグノタの方達から「偉大なるドイツ装甲師団の神」と称されるグデーリアンの人間像を、良くも悪くも深く理解できるという点で、本書はとても面白い本です。私も初めは700Pもあるのか…なんて思っていましたが、読み始めると止まらなくて、前半1日、後半1日みたいなペースで読んでしまいました。
 軍事史などに興味がない人にはさすがにお勧めできませんが、少しでも戦車という世界に興味を持つなら、戦車がどのようにして生まれて、どんな考え方の元に発展してきたのかを読み解く資料として、とても有意義な本だと思います。秋山殿のファンにもお勧めだよw

 最後に「そうはいかない!西ドイツの姿勢に関する論考」より「誹謗中傷の排除」の一文を引用します。

 国家崩壊のこの方、ドイツのジャーナリストの大部分は、軍人という存在の全てに対し、ことあるごとに、あらゆる種類の毒々しい侮蔑、愚弄、卑劣な言葉を浴びせかけてきた。誹謗中傷や悪罵の量たるや、おそらくわが国民、あるいは地上のどれか他の国民の歴史にも類を見ないほど、とほうもないものだった。それらが、自らの使命は神聖であると信じ、国民のために命を懸けてきた人々に対して、まきちらされたのだ。そうした事態は、今日に至っても、ほとんど変わっていない。現在、いくつか勇気ある報道機関は、真っ当な論調を導入し、公正を付そうと努力している。が、ジャーナリズムの多くは、古い憎悪と国民の恥や不名誉を流通させようと操作しているのだ。

 当時のドイツの社会情勢がどのようなものだったかわかりませんが、日本ではこうした敗戦直後に勝ち馬に乗ったジャーナリスト(に分した扇動家)がまだまだのさばってますね。
 戦争に負けた国はどこでも同じようなもんだなと思うと同時に、このように戦争そのものの議論と考察を抹殺してきた日本は相変わらずこの分野では遅れているなと感じました。
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